茨城を「日本一スタートアップが成長しやすい県」にするための提言書(2)

茨城を「日本一スタートアップが成長しやすい県」にするための提言書(1)から続く

2.働く「ヒト」

〜提言2:高度人材採用の起点としてのサテライトオフィス整備〜

地方のスタートアップが東京にサテライトオフィスを設けるという事例はこれまでも多く見られてきた光景です。この場合のサテライトオフィスの機能としては、セールス拠点としての役割が主に意識されてきました。

しかし、実際に東京方面にサテライトオフィスをおいているスタートアップの話を聞いてみると、高度人材を採用するうえでも、サテライトオフィスの存在が有効であることが分かってきました。

従来、地方のスタートアップが東京方面から高度人材、特に初期のコア人材となりうる人材を採用するにあたっては、地方への移住が大きなハードルとして立ちはだかっていました。つまり、最終的にマッチするか判然としない会社へのジョインに、移住という選択が加わると、更に重い意思決定となるのです。それが、ジョインにあたり東京のサテライトオフィスが前提となってくると、その意思決定はライトなものになってきます。高度人材、コア人材が集まりやすくなれば、確実にスタートアップの成長につながります。

しかし、アーリーステージのスタートアップでは、本社に加えて東京にサテライトオフィスを構えることは、資金的にも非常に厳しいものです。そこで県が、一社数人から利用できるシェアオフィスを東京方面に用意し、スタートアップに対し格安で入居できるようにすることで、上記メリットを享受させることが可能となります。県として初期投資を抑え、希望企業の増減に柔軟に対応するため、すでに存在するインキュベーション施設やシェアオフィスを間借りする形を想定しています。

必要な設備としては、パーティーション付きの占有スペース(2~3名使用)、ミーティングルーム、遠隔会議用の設備(モニター、マイク等)、フリースペースなどが想定されます。

===

予算規模感:年間5000万円〜1億円
(20万/社・月✕10社〜20社)

〜提言3:人材マッチングのリスクを減らす「大人のインターン」助成〜

つくばエクスプレス沿線の発展、JR常磐線の東京・品川駅延伸の実現に伴い、茨城県から東京方面の企業へ通勤している人間は近年特に増加しています。そして、そういった人々のなかには、能力が高く、茨城に対する愛着が強く、そしてスタートアップで働くことに興味のある人材が一定数存在すると考えます。実際に県内のコワーキングスペースには、そのような人材が集まりつつあります。

スタートアップがそういった人材にアクセスできれば、東京から人材を採用するよりもハードルが低く、本社勤務のコア人材を揃えることが可能です。

ただし、この場合も人材側にとって、最終的にマッチするか判然としないスタートアップへのジョインには少なからずハードルが存在します。そうしたマッチングリスクをコストレスで極力減らすために非常に有効なのが、一度副業ないしプロボノの一環としてそのスタートアップに関わってもらうことです。いわゆる「大人のインターンシップ」です。現職の規定上副業が可能であれば、業務委託として契約を交わすことがジョイン時のコミットを疑似体験するという意味で、より望ましい形態と言えます。

そして、そのトライアルをライトに実施できるよう、「大人のインターン」に対する助成制度を創設し、県として取り組みを促進することが大切です。

===

予算規模感:年間4000万円〜1億円
(20〜50万/月✕2ヶ月✕100名/年)

3.支援する「ヒト」

〜提言4:県内のスタートアップと支援者を透明化するデータベース助成〜

数的な観点でみると、県内のスタートアップの数は決して少ないわけではなく、傾向としても増加トレンドにあります。スタートアップの支援に携わっている人材も、スタートアップの数に対して不足してはいますが、筑波大学卒の経営者等で組織される筑波フューチャーファンディング(TFF)や、TX沿線のインキュベーション団体であるTXアントレプレナーパートナーズ(TEP)などを中心に近年組織されつつあります。

しかしながら、県内のスタートアップ、メンター人材や投資家などの情報は、各公的支援機関に分散するか、もしくは表に出ていないことが多く、「支援されたい」「支援したい」というニーズはありながらも、その存在が見つけづらいという問題があります。

コストパフォーマンス高く、情報の流動性を高めるためには、すでに存在する起業家や投資家情報の全国的なデータベースサービス(Entrepedia, StartupList等)を活用することが一番早い方法です。そういった情報を地方において民間が定期的に整備することは非常に採算性が悪く、現実的ではありません。

そこで、各公的支援機関が県内スタートアップの情報を収集し、上記全国的なデータベースに登録、随時更新する費用を県が補助する制度を整備することを提言します。

これにより、県内のスタートアップと支援者のマッチングが促進され、スタートアップの成長に資するだけでなく、データベースがいつも最新の状態で全国のスタートアップ界に発信されることになります。

===

予算規模感:年間1000万円程度

 

4.ヒトをつなげ、支える「場」

〜提言5:重点支援エリアをフォーカスしたインキュベーション施設の支援制度〜

いかに県のスタートアップ界に人材を誘引しても、そうした多種多様な「ヒト」が交流し、つながる「場」がなければ、コミュニティは脆く弱いものになってしまいます。また、スタートアップは、ある程度集積してはじめて、競争やコラボレーションが生まれ、成長が加速していきます。

現状でも、県内各所にインキュベーション施設やコワーキングスペースが増えてきていますが、もしこれが分散してしまうと「場」としては弱いものになってしまいます。やはり、こういった「場」は集積という要素があってはじめて、効率的なスタートアップ育成環境の整備が可能となるのです。

そこで、県内のスタートアップ関連の施設(コワーキングオフィス、シェアオフィス、インキュベーション施設等)に対して重点支援するエリアを県内数カ所に限定し、集積を促進することを提言します。支援の内容としては、施設として利用する物件の賃料補助、設備・備品の取得費用補助等が想定されます。

また、一つのビルに、オフィス機能、会議室機能、居住機能など職住を限りなく近接させるコンセプトの施設、など施設の形態を指定した支援や整備も有効です(参考事例:ANRIのグッドモーニングビル)。

特につくば地域は、最重点支援地域として取り組むべきエリアであり、TXつくば駅周辺のクレオおよびつくばセンタービルは上記のようなスタートアップ育成用複合施設の整備が十分可能なキャパシティを有していると考えます。周囲の公務員住宅再開発に合わせ、スタートアップ向け住居(スタートアップレジデンス)を整備する余地も残っており、これらも含めて実現ができれば、日本や世界のスタートアップ界に非常に大きなインパクトをもたらすことが可能です。

===

予算規模感:5000万〜1億円以上
(月30万〜50万/1施設✕3施設✕5重点地域、設備・備品取得費用補助ほか)
(つくば地域の整備を追加で行う場合はそれ以上の予算措置が必要)

〜提言6:創業一周年記念お祝い金〜

スタートアップが1年を超えて存続することは、一定の成長性と可能性を示すことができなければ達成できないものです。そういった意味で、スタートアップの1周年を記念するイベントは、採用面や、新しい支援者やVCとの接触点を作るにあたって非常に有効な手段といえます。

そこで、日本で未だ例を見ないスタートアップ支援策として、創業一周年を迎えたスタートアップに記念イベントを開催する費用の補助を行う制度を提言します。スタートアップの一周年記念イベントが県内各地で開催されれば、スタートアップの成長を県が応援し支えていることを内外に明確にできますし、様々な「ヒト」を呼び寄せる一つのきっかけとすることが出来ます。

ここで、一周年イベントを開催するにあたって、地域の住民や企業、行政関係者や支援者の招待を義務付けることを費用の補助を行う条件とします。地方のスタートアップにとって、その立地地域との関係性が実は重要なファクターとなりえます。地域の中小企業経営者とつながっていれば、様々な面で助けになりますし、周辺の住民や商店等との関係が深まれば、近隣に住む従業員の満足度が向上するひとつのきっかけを作ってくれます。

なお、対象企業数に関する制限としては、提言1のエンジェルVCを含む茨城県の関与するVCの出資先に限定することが考えられます。

===

予算規模感:年間400万円〜800万円
(40万/社✕10社〜20社)

最後に

昨年の11月27日に大井川知事を表敬訪問させていただいてからの約1年間、県のスタートアップ政策の担当課の方々と茨城にゆかりのあるスタートアップ界の人間とで、何度もディスカッションの機会を設けさせていただきました。そのなかで、総花的にならず、過保護でもなく、行政にしかできない政策で、かつエッジが効いていて、本質的な効果のある政策を一から模索してきました。

結果として、今の茨城において、スタートアップの成長に必要な政策を4領域、6政策にフォーカスしてまとめることができました。これが実現すれば、茨城県は「日本で一番スタートアップが成長しやすい県」に限りなく近づきますし、それは知事が提唱される「日本で一番起業しやすい県」を包摂し、本県から世界に向けた新しい価値創造が爆発的に増えていく端緒になると確信します。

この提言をもって、一度ボールを県庁の皆さまにお渡しさせていただきます。

そしてこのボールが、皆さまのなかで咀嚼され、実際の政策として実施される段階が訪れることを切に願います。

 

2018年9月20日

茨城県スタートアップ界有志一同

本提言企画者 常間地 悟

 

Appendix. 本提言ディスカッション参加者(敬称略)

スタートアップ側参加者(順不同)

プロトスター株式会社 代表取締役CCO 栗島祐介

プロトスター株式会社 代表取締役COO 山口豪志

株式会社FullDepth 取締役副社長 吉賀智司

株式会社ワープスペース 代表取締役CEO 亀田敏弘

フラー株式会社 代表取締役CEO 渋谷修太

株式会社しびっくぱわー 代表取締役社長 堀下恭平

株式会社シェアトレ 代表取締役 木村友輔

一般社団法人TXアントレプレナーパートナーズ 理事 後藤良子

株式会社AGREE 代表取締役CEO 伊藤俊一郎

株式会社ユニキャスト 取締役副社長COO 箕輪優一

合同会社for here 代表社員 江本珠理

 

企画提案者(本提言書文責)

一般社団法人筑波フューチャーファンディング 理事 常間地悟
(フラー株式会社 執行役員、株式会社ワープスペース 社外取締役)

 

企画調整者

茨城県議会議員 星田弘司

全文PDFはこちら
概要版PDFはこちら

茨城を「日本一スタートアップが成長しやすい県」にするための提言書(1)

9月20日、昨年11月から仕込んでいたスタートアップ関連政策の提言書を大井川茨城県知事にお渡ししてきました。

星田県議に当初からご調整いただき、
県の職員の方々には前のめりで取り組んでいただき、
同世代の茨城ゆかりの起業家たちには何回ものディスカッションに出席いただき、
この世代の起業家だからこそのエッジの効いた提言をまとめることができました。

昨年に引き続き、面会の機会をこころよく作っていただいた大井川知事も含め、多くの方に感謝の気持ちがいっぱいです。

提言書の最後にも書きましたが、これで一旦ボールは県の方々に渡りました。
いちばん大事なのは、ここからどう実際の動きを出していただけるかだと思っています。
これからが正念場。僕も頑張ります。

みなさんも実際の提言書をぜひご覧ください。

“茨城を「日本一スタートアップが成長しやすい県」にするための提言書(1)” の続きを読む

企業の成長と人を惹きつけるということ

今年に入ってから、新たにお手伝いを始めたベンチャーが柏の葉にあります。
そこは、私の同級生が立ち上げたスタートアップで、スマートフォンの視聴率データサービスを展開しています。
昨年2月に2.3億の資金調達を行い、社員の人数も毎月どんどん増えている、まさに成長企業です。
http://fuller.co.jp/

成長企業が成長企業たる所以は様々な要因があるはずですが、
そこに人を惹きつけるものがあるかどうか、という点が一つ大きなファクターとして考えられます。

お客様然り、社員然り、株主然り、取引先然り、

あらゆるステークホルダーをいかにして惹きつけ、「味方」「仲間」にしてしまうか、
これがあらゆる企業が昔から追い求めてきたテーマです。

その「惹きつける」力の重要性が、ひと昔前と比べて、 より増しているように感じます。
マーケットの縮小、人材の売り手市場、リスクオフ、調達競争の激化、
いろいろと個々の理由はあるにせよ、一つ言えるのは「選択肢の拡大」です。

これまでは、国内のプレイヤー間で競争をしていればそれで良かった日本。
家電はSHARP、Panasonic、Sony、東芝、、、
車はトヨタ、ホンダ、日産、、、
小売りは、イオン、イトーヨーカ堂、西武、、、

それが今では、選択肢が外資系プレイヤーまで広がり、
中国、台湾系の家電メーカーの攻勢に日本勢は総崩れ、
車は、まだ日本勢が強いですが、最近外国車メーカーが低価格帯車種をラインナップし、
少しずつそういった車が目立つようになりました。
小売りは、Amazonという巨人に対して立ち向かう気概のあるプレイヤーが
まだこの国にはいないように感じます。

人材に関しては、終身雇用制の非一般化とともに、
エージェント、ヘッドハンティング形式の転職が常識になりつつあり、
短い期間にある会社を退職しても、それが昔ほど汚点になりにくくなっています。
人々はより働きやすい環境、能力の発揮できる環境を求めています。

一方で、安定志向の若者が増えていることは事実ですが、
定年までこの会社で勤め上げることができなければ恥だ。とか、
何があっても我慢して働かなくては、などと考えている人は、
皆無といっていいのではないでしょうか?

それはキャリアメイキングの選択肢が増えているからで、
優秀な人材ほど、流動性が高いといえるでしょう。

そういった移り気なマーケットや人材をつなぎとめるためには、
これまで以上に「惹きつける」力が必要なのです。

大したコミュニケーションを取らずとも、ブランドや給料、力や規律で、
それらを支配できた時代はとっくに終わりました。

フラットなコミュニケーションをより多くとり、
なぜ〇〇はこの事業を推進しているのか?
なぜ〇〇を買うべきなのか?
なぜ〇〇に入社してほしいのか?
なぜ〇〇から調達したいのか?
なぜ〇〇にこの仕事を任せたいのか?
ということを、魅力たっぷりに伝えてはじめて、彼らはこちらを向いてくれるのです。

ベンチャーや中小企業などは特に、です。
それができなければ、お客さんは増えず、採用もうまくいかず、離職率も高止まり、
投資も集まらず、簡単であるはずの調達ですら失敗します。

トップやマネジメント層が、フラットなコミュニケーションを意識し、
会社そのものを明るく、活発な、魅力あるイメージ、雰囲気を醸成することができれば、
それは全社に伝播します。

それは成長企業、資金のある企業、儲かっている企業だからできることだ、
という人もいるかもしれませんが、それは違います。

成長前だからこそ、まだ小さなベンチャーだからこそ、絶体絶命なピンチだからこそ、
リーダーは、それをはねのけるエネルギーでもって、メンバーを安心させなければなりません。

かのスペースX、テスラモータースのイーロン・マスクも、
何十億、何百億とかけて開発したロケットの打ち上げが失敗、延期し、
もうダメだと周囲の誰もが考えたときでも、
これは成功への確かなワンステップだと、スタッフを励まし、鼓舞し、
結果その言葉を実現させたように、
成長企業は、どんな状況下においても、人を惹きつけ、自然と突き動かされる「何か」を持っています。

Photo credit: ecolepolytechniqueups via Visual hunt / CC BY-SA