9月20日、昨年11月から仕込んでいたスタートアップ関連政策の提言書を大井川茨城県知事にお渡ししてきました。
星田県議に当初からご調整いただき、
県の職員の方々には前のめりで取り組んでいただき、
同世代の茨城ゆかりの起業家たちには何回ものディスカッションに出席いただき、
この世代の起業家だからこそのエッジの効いた提言をまとめることができました。
昨年に引き続き、面会の機会をこころよく作っていただいた大井川知事も含め、多くの方に感謝の気持ちがいっぱいです。
提言書の最後にも書きましたが、これで一旦ボールは県の方々に渡りました。
いちばん大事なのは、ここからどう実際の動きを出していただけるかだと思っています。
これからが正念場。僕も頑張ります。
みなさんも実際の提言書をぜひご覧ください。
茨城を「日本一スタートアップが成長しやすい県」にするための県スタートアップ界からの提言書
2018年9月20日
はじめに
2000年から2018年にかけて、日本の名目GDPはほとんど成長していません。その間、同じ先進国のアメリカやドイツは約2倍の成長。中国にいたっては9倍弱の成長を成し遂げています。(IMF – World Economic Outlook Databasesより)
今この国に生きる若者は、その人生の大半をバブル崩壊以後30年近くにわたる「失われた時代」のなかに過ごしてきました。私たちの生まれる前、全く預かり知らないところで失われた「時代」。私たちはそんな世代だからこそ、ある種の反骨心をもって、今この国の人々が置かれた状況に立ち向かおうとしています。
若者を中心とした「起業ブーム」とよく言われますが、起業するそれぞれの心のうちにはそういった世代的背景が少なからず確実にあります。身近な地域が、コミュニティが、国が、世界がより良い明日を迎えられるように、真剣に日々取り組んでいる人間たち。それが今の起業家像だと考えます。
この提言書は、茨城に住み、暮らし、もしくは生まれ、育ち、あるいは学び、働く起業家である私たちが考える、茨城県が「日本一スタートアップが成長しやすい県」になり、世の中にない価値、未来、ワクワク感を圧倒的なスピードで生み出していくための重要な要素と必要な政策案をまとめたものです。
茨城に「スタートアップが成長しやすい」環境が必要な理由
スタートアップのエコシステムがうまく回るためには、多産多死が前提です。多くの失敗を環境として経験してはじめて、ノウハウと知見がそのエコシステムに養分としてたまり、次の挑戦のスケールと成功確率が上がっていきます。ただ、スタートアップが成功するにしても、失敗して次代の糧になるにしても、少なくともある程度は成長していなければなりません。
起業に何百万も何千万も用意をしなければいけない時代はとうの昔に終わっています。今や中学生や高校生でもリーンに起業できる時代です。
スタートアップが世の中にない価値を生み出すために本質的に重要なことは、「起業すること」そのものではなく、「成長すること」なのです。
茨城県で創業したスタートアップはこれまでもありましたが、そのうちの成長企業の多くが県外への移転を選択しました。もちろん、県外への移転がそのスタートアップの成長のために最適な解であるならば、それは妨げられるべきではありません。ただ、なかには茨城に残りながらもビジネスを拡大できる、ないし茨城にいることが価値となるスタートアップも苦渋の決断のうえで県外へ何社も転出しています。
その結果、県内に残っているのは、ごく一部の成長企業か、成長しきれずにあえいでいる零細スタートアップが大半です。
この状況を打破するためにも、成長のために茨城に立地することが最適である環境を出来るだけ整備していくことが非常に重要だと考えます。
行政や自治体にとってみても、スタートアップが生まれるだけでは特にメリットは大きくありません。彼らが成長して初めて、雇用が生まれ、税収への貢献も可能となります。スタートアップが社会に良いインパクトを与えるには、成長してこそなのです。
スタートアップが成長しやすい環境をつくる重点要素
〜「ヒト」、そしてヒトを繋ぎ支える「場」〜
スタートアップが、いわゆるシード期(創業〜初期プロダクト)を乗り越えて成長するためには、ヒト、カネ、モノ、情報など、多くの視点と観点が必要です。だからといって、全ての要素を同時並行で整えていこうとすると、全体として一貫性がなくなり、うまくいきません。環境づくりにあたって大切なのは、各要素の依存関係を把握したうえで、共通して横串を刺せる要素へのフォーカスです。
ここで、私たちは、上記ほぼ全ての要素に共通して関わりのある「ヒト」、そしてその多種多様な要素を併せ持つヒトが集い、つながり、活きる「場」にフォーカスして取り組むことが、スタートアップが成長しやすい環境をつくる一番の近道であると考えます。
起業家はもちろんのこと、シード期のスタートアップには経営人材、エンジニアなどで初期チームのコアになれる人材が必要ですし、カネという側面では、エンジェル投資家や、比較的初期のステージを対象とするベンチャーキャピタル(VC)などもその根幹は、そのなかにいる「ヒト」です。また、事業グロースのノウハウや資金調達の仕方などの情報をもっているのも、新しいビジネスモデルや技術に理解が深く、スタートアップの経営をすでに経験したことのあるメンターなどの支援人材、つまり「ヒト」です。
そういった多様な「ヒト」を集めることができれば、茨城は確実に「日本一スタートアップが成長しやすい県」になることができるのです。そしてそのヒトを集めるには、一定の空間と「場」が必要となります。
この提言書では、「起業するヒト」、コア人材などの「働くヒト」、メンターや投資家などの「支援するヒト」の3つの「ヒト」と、そのヒトを繋げる「場」を合わせた4つの軸で、スタートアップの成長にとって重要な人材が自然と集まる政策案を提示していきます。
1.起業する「ヒト」
〜提言1:独立性と透明性の高いエンジェルファンドの設立〜
今、茨城には創業直前のプレシード期や創業直後のシード期に機動性をもって出資をするエンジェル投資家の層が非常に薄いと言わざるを得ません。東京でもここ数年でやっと一般的になりつつあるエンジェル投資家の存在の一番の価値は、数百万規模の少額とはいえある種の直感と勢いで投資が出来る点です。審査に長い時間を要し時期的柔軟性が低い補助金や、与信を第一に考えなければならない金融機関の融資とは比べものにならないスピードと柔軟性で投資を実行可能です。
エンジェル投資が行われないとなると、リーンに起業しようとする場合、初期の資金需要を自己資金で用意せざるをえなくなるため、起業するヒトも生まれず、より環境の良い東京で起業する方が合理的ということになってしまいます。
まず、成長するスタートアップの起点となる起業家人材を集めるためには、エンジェル投資が行われやすい環境にすることが非常に重要です。
ただ、これまでエコシステムの回ってこなかった茨城を含む東京以外の地域では、短期にそういったエンジェル投資を民間セクターから発生させることは非常にハードルが高いと考えられます。
したがって、公共的側面からリスクを負うことが出来る県が、エンジェル投資を中心に行うベンチャーキャピタルを設立し、柔軟かつスピード感をもって、シード期のスタートアップの少額資金需要に応える機能をもたせることが、環境づくりにとって大きなインパクトをもつ一手になると考えます。
行政が独自にエンジェルVCを立ち上げることは、この国で初めてのケースとして全国の注目を集め、起業家やその他投資家を強く惹きつける大きなきっかけとなるでしょう。また、出資先のスタートアップがアーリー/ミドルの次の投資ステージに進む実績が付いてくれば、県内の有力企業や資産家がエンジェル投資の魅力に気づき、参入してくることも考えられます。さらに、県がアーリーステージに投資する仕組みを創ることで、仮に投資先のスタートアップが成長のために県外を離れる選択をしても、キャピタルゲイン上のメリットを県に残すことが出来、その成長のための選択を純粋に応援することが出来ます。
ここで重要なのは、県がつくるエンジェルVCが独立性と透明性をもったうえで運営されることです。
エンジェル投資はある意味確率の世界です。エンジェル投資家は経験則や知見をもって、もちろんチームやビジネスモデルの成長性を測り、投資を実行するわけですが、実際彼らが期待する成功確率はわずか数%です。ビジネスの見通しより、チームそのものの可能性に掛け、ともに成長を追いかけるのが、エンジェル投資がエンジェルたる所以です。そしてわずか数%の投資先がエグジットすることで、全体としてリターンを得るというモデルで収益を得ます。個々の失敗そのものをおそれていては、エンジェル投資の機動性が全く発揮されません。
したがって、このVCは設定された投資方針のもと、個々の投資判断に対しては県の介入を一切受けず、柔軟かつスピードをもって投資決定ができる独立した権限を付与される必要があります。
ただ、県民の税金を原資とするVCですから、投資全体のパフォーマンスの説明責任は当然県民すべてに対して追わなければなりません。その説明は、投資先の事業の不利にならない限り、最大限の透明性をもって行われるべきものです。
また、このVCを運営する人間は、スタートアップ経営の経験や支援の経験のほかに、茨城という地域についての肌感やコネクションを持っていることが必要であると考えます。
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予算規模感:3億円〜5億円
(300万〜1000万/件✕40社〜50社の投資実行、および運営チームの人件費、経費等)
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